「売上の大半が現金だから、調べられたら何か言われそうで怖い」
「キャストの日払いを、ちゃんと処理できているか自信がない」
「ママ一人でやっている店だから、税務署の人が来たら何も答えられない」
「顧問の税理士はいるけれど、調査のときに何をしてくれるのか知らない」
「うちは小さい店だから、税務署が来るわけがない」と思っていませんか。 店の大きさで調査が決まるわけではありません。 現金の出入りが多く、領収書や伝票が手書きで散らばりやすい業種は、見る側にとって確認したい点がはっきりしています。
怖いのは調査そのものではなく、何を聞かれるか分からないまま当日を迎えることです。
税務調査は予告なしに来る?
原則として、事前に連絡が来ます。いきなり店に現れるのは例外です。
国税通則法には、調査の前に納税者へ通知するルールがあります。 通知で伝えられるのは、調査を行うこと、始める日時と場所、調査の目的、対象の税の種類、対象の期間、見たい帳簿や書類などです[1]。
税務署の職員が実地の調査を行うときは、あらかじめ納税者に対し、調査を行う旨と、開始の日時・場所、調査の目的、対象の税目、対象の期間、対象の帳簿書類などを通知する。
※上は内容をまとめた要旨です。正確な文言は出典のe-Gov法令検索で確認してください。
では、予告なしで来ることは本当にないのでしょうか。 法律には、通知をしなくてよい場合も定められています。 事前に知らせると正確な事実の把握が難しくなると判断されたときです[1]。 例外があるので、「必ず予告がある」と思い込むのは危険です。
調査は断ってもいい?
日程の相談はできます。調査そのものを断ることはできません。
税務調査は「任意調査」と呼ばれますが、質問に答えず、帳簿の検査を拒んだ場合には罰則があります。 国税通則法は、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金と定めています[1]。 法人でも個人事業でも、所得税や法人税の調査で質問や帳簿の検査をする権限は、国税通則法第74条の2に定められています[1]。
「日程が合わない」「税理士に同席してほしい」という相談は普通に認められます。 営業日の繁忙時間を避けたい場合も、早めに申し出れば調整できることが多いです。 断るのではなく、決めた日に整った状態で迎える。それが一番の防御になります。
事前準備は何をする?
「準備といっても、何から手をつければいいか分からない」という声は多いです。 順番を決めれば、手を動かす量は思ったより少なく済みます。
帳簿と書類の保管場所を一覧にする
売上日報、レジの記録、伝票、請求書、領収書、通帳。どこに何があるかをまず書き出します。 法人は帳簿と書類を備え付けて保存する決まりがあり、保存期間は原則7年です[2]。
売上の流れを一本の線で説明できるようにする
お客さんが払う、レジや伝票に残る、日報にまとめる、通帳に入る。この流れが途切れていないかを確認します。 現金売上は、どこかで抜けていると疑われやすい部分です。
キャストへの支払いの根拠をそろえる
日払い、バック、罰金や控除の扱いを、契約書や明細で説明できるようにします。 業務委託か雇用かは、契約書の名前ではなく働き方の実態で判断されます。 源泉徴収や社会保険の扱いも、その判断に連動します。
お金の貸し借りと私的な支出を整理する
社長やオーナー個人と店の間の貸し借り、私用の支払いが経費に混ざっていないかを確認します。 接待飲食費も、誰と何のために使ったかが分かる記録があるかを見直します。
現場でつまずきやすい書類の置き場所
手書きの伝票、日報、キャストの日払いメモは、経理に渡らず店舗の引き出しやバックヤードに残りがちです。 調査の通知が来てから探すと、複数の店舗に分かれた書類を集めるだけで日程が足りなくなります。 店ごとに「毎月末、この箱にまとめる」と置き場所と締めの日を決めておくと、集める作業そのものがなくなります。
書類が見つからないこと自体が、すぐ問題になるわけではありません。 ただ、説明できない部分が多いほど、確認の範囲は広がります。
当日はどう対応する?
基本は、聞かれたことに事実だけを答えることです。
分からないことを推測で答えるのは避けてください。 「確認して後日お答えします」で構いません。 その場しのぎの答えは、あとで書類と食い違ったときに、かえって不信感を生みます。 国税通則法には、うその答えにも罰則があります[1]。
当日の心がけを整理すると、次のようになります。
| やること | 避けること |
|---|---|
| 聞かれた範囲の事実を、短く答える | 聞かれていないことまで推測で話す |
| 分からない点は「確認して回答します」と伝える | その場で適当に答える |
| 書類を出すときは、何を渡したかをメモしておく | 書類を黙って持ち出されたままにする |
| 税理士に同席・連絡してもらう | 一人で抱え込んで即答する |
調査が終わると、結果の説明を受けます。 誤りが見つからなければ、その旨が伝えられます。 誤りがあれば、内容の説明とあわせて修正申告などの案内があります[1]。
間違いが見つかったらいくら払う?
不足していた税金に加えて、ペナルティの税がかかります。 どれがかかるかは、間違いの理由で変わります。
| 名前 | どんなとき | 目安の割合 |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 申告が少なかった | 不足税額の10%(一定額を超える部分は15%) |
| 重加算税 | 売上を隠した、帳簿を偽ったなど | 35%(無申告の場合は40%) |
| 延滞税 | 納付が遅れた期間 | 期間に応じて日割りで加算 |
割合は国税通則法の規定にもとづく基本の数字で、状況により変わります[1]。 重いのは重加算税です。うっかりミスと、隠したと見なされる行為では、負担がまったく違います。
さかのぼれる期間にも限りがあります。 税務署が納税額を訂正できるのは、原則として法定申告期限から5年です。 偽りその他不正の行為があった場合は7年に延びます[1]。
よくある質問
Q1. 税理士が付いていれば、調査は任せきりでいい?
同席や立ち会いは任せられます。ただし、日々の売上や支払いの事実を知っているのは店側です。 税理士が正しく説明できるように、書類と状況を共有しておくことが前提になります。
Q2. 領収書をなくしてしまったら、経費にできない?
領収書がなくても、支払いの事実を別の資料で示せる場合があります。 通帳の記録や請求書、支払先の連絡先などです。 ただし、説明の手間は大きく増えます。再発行できるものは早めにもらっておきましょう。
Q3. 個人事業のスナックでも調査は同じように来る?
来ます。個人事業主の所得税の調査にも、国税通則法第74条の2にもとづく質問・検査の権限が及びます[1]。 法人でなくても、帳簿と書類の準備は同じように必要です。
Q4. キャストの日払いは、経費にできる?
支払った事実と、その根拠が示せれば経費にできます。 金額、日付、相手の分かる明細を残しておくことが大切です。 現金で渡して記録がない状態が、一番説明しにくくなります。
Q5. 調査が終わったあと、同じ内容でまた調査されることはある?
調査が終わって結果の説明を受けたあとでも、新しい情報があれば、再び調査を行えるという定めがあります[1]。 だからこそ、指摘を受けた点は書類の作り方から直しておきましょう。
日払いのメモは月末に一箱へ。売上の流れは、お客さんの支払いから通帳まで一本で話せるように。 「ママ一人の店だから何も答えられない」と不安だった人も、この二つが整っていれば、聞かれた事実をそのまま答えるだけで済みます。
参考・出典
- [1]国税通則法(e-Gov法令検索)(参照: 2026-10-25)
- [2]法人税法(e-Gov法令検索)(参照: 2026-10-25)