「売上は去年と変わらないのに、電気代の請求書だけ重くなった」
「ガス代が上がって、氷やお湯を使うのが惜しくなってきた」
「LEDに替えたほうがいいのは分かるが、工事代を回収できるのか読めない」
「ビルの大家に聞くのが面倒で、契約の中身をまともに見たことがない」
光熱費は家賃や人件費と違い、毎月ほぼ自動で引き落とされるので、気づかないうちに利益を削ります。 しかも「節電はこまめな消灯」と思われがちですが、削減額が大きいのはそこではありません。効くのは、契約・照明・空調・冷蔵の順番です。この順番を間違えると、お金をかけたのに請求書がほとんど変わりません。
光熱費はどこで使われているのか
対策の前に、電気の使い道を分けます。ナイトビジネスの店は、夜の数時間にまとめて電気を使う点が特徴です。
| 設備 | 使い方の特徴 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 照明・看板 | 営業中ずっと点灯。開店前の準備時間も点く | LED化、点灯時間の整理 |
| エアコン | 人の熱気とお酒の提供で、設定温度が下がりがち | フィルター掃除、設定の統一 |
| 冷蔵庫・製氷機・ワインセラー | 24時間止められない | 詰め込みすぎ防止、古い機器の入れ替え |
| 給湯・厨房(ガス) | おしぼり、洗い物、軽食 | ガス契約の単価比較、湯温の設定 |
「どれが一番高いか」は店ごとに違います。まず直近12か月分の請求書を並べて、月ごとの使用量(kWh)を書き出してください。金額ではなく使用量を見るのがコツです。単価が上がった分と、使いすぎの分を切り分けられます。
契約の見直し — 投資ゼロで先にやること
「契約なんて変えても数%でしょ」と思うかもしれません。ただ、契約の見直しは工事も初期費用もかからない場合が多く、最初に手を付ける価値があります。
確認する点は3つです。
契約の種類と基本料金
店舗向けの電気は、家庭用と料金の決まり方が違います。基本料金が、契約容量やこれまでの最大使用量で決まるタイプもあります。 実際の使用量に比べて契約が大きすぎないか、請求書の「契約」欄で確認します。
営業時間に合った時間帯プラン
夜に使う店は、昼間の単価が安いプランよりも、夜間の単価が安いプランのほうが合う場合があります。 自分の使用パターンで、複数社の見積もりを同じ条件で取り比べてください。
ガスの単価と契約先
ガスも会社によって単価が違います。切り替えが可能な地域か、解約時の費用はあるかを先に聞きます。
テナントでは、電気やガスの契約名義が自分の店ではなく、ビルのオーナー側にある場合があります。この場合、新電力への切り替えもLEDへの交換も、自分の判断だけでは進められません。 契約書の「共益費」「光熱費」の欄と、検針票の宛名を先に確認してください。 また、照明や空調の入れ替え工事は、退去時の原状回復や設備の所有区分とも絡むため、工事の前に、書面でオーナーの承諾を取っておくのが安全です。
LED化の元は取れるのか
営業時間が長く、点灯台数が多い店ほど、取れる可能性が高くなります。逆に、照明が少なく点灯時間も短い店は、回収に時間がかかります。
目安は次の式で出せます。
(交換前の消費電力 − 交換後の消費電力)× 台数 × 点灯時間 × 電気の単価
ここで、あくまで仮の数字で計算してみます。蛍光灯1本40Wをやや控えめなLED20Wに替え、20本、1日10時間、月30日点灯、電気の単価を1kWhあたり30円と仮定します。
差は20W×20本=400W(0.4kW)。月の点灯時間は300時間なので、0.4kW×300時間=120kWh。 120kWh×30円=月3,600円、年43,200円です。
ここに工事代を当てはめます。見積もりが20万円なら、この条件では回収に5年近くかかる計算です。 逆に、使う本数や時間が倍なら、期間も半分になります。自分の店の本数と時間を入れて計算することが大切です。
もう一つの見落としが、看板やダウンライトなど、点きっぱなしの小さな灯りです。1つあたりは小さくても、営業前から閉店後まで点いていれば、年間の点灯時間はとても長くなります。
空調・冷蔵設備の手入れと入れ替え
空調と冷蔵は、手入れだけでも使用量が変わる設備です。お金のかからない順に並べます。
- エアコンのフィルターを定期的に掃除する
- 室外機の周りに物を置かず、風通しをよくする
- スタッフごとに設定温度がバラバラにならないよう、店で1つ決める
- 冷蔵庫のドアパッキンの劣化を確認する
- 製氷機は氷の作りすぎを避ける
入れ替えは、古い機器ほど効果が大きい一方で、費用もかさみます。10年以上前の機器は、まず新しい機種の消費電力を製品の仕様表で確認し、先ほどの計算式で回収期間を出してから判断してください。
「空調は夏と冬でお客さんの服装が違うから、温度は現場判断」という声もあります。もっともですが、判断者が全員違うと店全体の設定はばらつきます。基準温度を決めて、例外だけ現場で調整する運用にすると、ムダが減ります。
補助金と税金の扱い
「LED化には補助金が出る」と聞いたことがあるかもしれません。国や自治体、電力会社の省エネ向け支援はときどき実施されます。 ただし、募集期間や対象設備、金額は年度ごとに変わります。ここでは金額を断定せず、お住まいの自治体や商工会議所、商工会の窓口で最新の公募状況を確認するのが確実です。 なお、補助金は工事の前に申請が必要な場合がほとんどです。先に工事をしてしまうと対象外になることがあるので注意してください。
税金の面では、設備を買うと原則として「減価償却」といって、数年に分けて経費にします[1]。 ただし、2026年4月1日から2029年3月31日までに取得して使い始めた、1つあたりの取得価額が40万円未満の資産については、中小企業者など一定の条件を満たせば、使い始めた年(法人は事業年度)にまとめて経費にできる特例があります[2]。2026年3月31日までに取得したものは、同日までに使い始めた30万円未満のものが対象でした。
一定の中小企業者などが、2026年4月1日から2029年3月31日までに、取得価額40万円未満の減価償却資産を取得して事業に使い始めた場合、その事業年度に合計300万円まで、全額を経費(損金)にできる制度です(2026年3月31日までの取得分は、同日までに使い始めた30万円未満のものが対象でした)。 ※条文の原文ではなく要旨です。適用の条件や期限は改正されることがあるため、必ず原文と最新の案内を確認してください[3]。
LEDなら1台ずつ数万円でも、同じ種類の設備をまとめて取得する場合など、扱いが分かれるケースがあります。 判断が難しいときは、工事の契約前に、顧問税理士か税務署に聞いておくのが確実です。
やる順番の決め方
「全部やるのは大変」という方へ。順番はこうです。
請求書12か月分の使用量を並べる
まず現状の把握です。工事も契約変更も、この数字を前提に決まります。
契約を見直す(費用ゼロ)
名義、プラン、単価を確認します。テナントなら、オーナーへの確認が先です。
手入れと設定の統一
フィルター掃除、設定温度の統一。お金はかかりません。
計算式で回収期間を出してから設備投資
LEDと機器の入れ替えは、見積もりを2社以上取り、回収期間が納得できるものから進めます。補助金は着工前に確認します。
冒頭で挙げた「請求書が重くなったのに、売上は変わらない」店は、まず手順1と2だけでも一度やってみてください。数字を並べると、どこにムダがあるかが見えてきます。
よくある質問
Q1. 小さなバーやスナックでも、LED化は意味がありますか?
点灯する灯りの数と時間次第です。灯りが少なくても、営業前から閉店後まで点きっぱなしの看板や間接照明が多い店は、効果が出やすくなります。計算式に自分の本数と時間を入れて確認してください。
Q2. 電力会社を変えると、停電しやすくなりますか?
電気を送る送配電網は、契約先が変わっても同じ設備を使います。切り替えを理由に電気の品質が変わるわけではありません。ただし、契約先の経営状況やサービス内容、解約条件は会社ごとに違うので、契約書で確認してください。
Q3. 賃貸テナントでも、契約の切り替えはできますか?
自分名義で電気やガスを契約している場合は、切り替えられる可能性があります。ビル全体で一括して契約し、使用量に応じて請求される形の場合は、オーナーや管理会社の判断になります。まず検針票の宛名と賃貸借契約書を見てください。
Q4. 補助金はいつ申請すればいいですか?
多くの制度は、工事の契約や着工の前に申請が必要です。工事後の申請を認めない制度もあります。見積もりを取る段階で、自治体や商工会議所などに、対象になる制度がないか問い合わせてください。
Q5. 設備代は、その年にすべて経費にできますか?
原則は数年に分けて経費にします[1]。一方、2026年4月1日から2029年3月31日までに取得して使い始めた、取得価額40万円未満の資産など、一定の条件を満たせば、使い始めた年(法人は事業年度)に経費にできる特例があります[2]。適用できるかは会社の規模や設備の組み合わせで変わるため、契約前に税理士か税務署へ確認すると安心です。