「閉店後はみんなクタクタで、掃除はどうしても後回しになる」
「お酒と乾き物しか出さないから、食中毒なんてうちには関係ないと思っている」
「トイレの臭いがお客さんに不評な気がするけど、どこから直せばいいかわからない」
「保健所の立入検査が来たとき、何を見られるのか知らない」
ナイトビジネスの店は、夜通し人が出入りし、グラスもおしぼりも氷も毎日大量に動きます。 「酒だけの店だから食中毒は起きない」という思い込みは、実は一番危ない考え方です。 氷、グラス、カットフルーツ、おしぼり。口に触れるものが1つでも汚れていれば、原因になります。
食中毒が1件出れば、営業停止と悪評が同時に来ます。ひとたび信用を失った店に、常連は戻ってきません。
「小さい店だから関係ない」は通用しない
「規模が小さいから大げさな管理は要らない」「掃除くらい普段からやっている」。そう思う気持ちはわかります。
ただ、法律は店の大きさで線を引いていません。お酒や軽食を出して料金をもらう店は、客席が数席のスナックでも、飲食店として同じルールの対象です。 しかも、キャバクラやホストクラブでは、お客様の隣にキャストが座り、同じグラスや氷に触れ、会話が近い距離で続きます。 汚れや臭い、体調不良が客席にそのまま伝わる業態です。
やるべきことは意外と少なく、毎日の「型」にしてしまえば負担も小さくなります。
食品衛生法が営業者に求めていること
飲食を提供する店の衛生管理の土台は、食品衛生法です。法律上の約束ごとを、まず押さえておきます。
・飲食店営業をするには、保健所を通じた都道府県知事等の営業許可が必要
・営業者は、食品衛生上の危害の発生を防ぐための衛生管理を行わなければならない
・腐敗したもの、有害なもの、不潔なものなどを、販売したり提供したりしてはならない
※ 上記は内容を整理した要旨です。正確な文言と条番号は、e-Gov法令検索の食品衛生法で確認してください。
2021年6月からは、原則としてすべての飲食店にHACCP(ハサップ)に沿った衛生管理が求められています[2]。 名前は難しく聞こえますが、中身は「どこが汚れやすいかを先に洗い出し、決めた手順で毎日守り、記録を残す」ということです。 小さな店には、厚生労働省が手引書を用意し、簡単な形で運用できるようにしています。
つまり、清掃は「気が向いたらやる気配り」ではなく、法律上の営業者の義務です[1]。
食中毒が出たらお店はどうなる?
食中毒の疑いが出ると、保健所の調査が入り、原因が店にあると判断されれば営業停止などの行政処分を受けることがあります。
調査では、調理や提供の流れ、従業員の体調、施設の清掃状況、冷蔵庫の温度などが確認されます。 原因となった食品を特定できない場合でも、清掃や管理の状態が悪ければ、それが評価に響きます。 食中毒の原因となる細菌やウイルスは、厚生労働省の食中毒のページに整理されています[3]。
では「うちは何も作らず、酒しか出さない」なら安全なのでしょうか。 そうとは言えません。氷を入れるスコップの汚れ、洗い残しのグラス、使い回したおしぼり。これらは調理をしなくても、客の口に入る経路になります。 次の章のチェックリストは、この「口に入るもの」を中心に組んでいます。
清掃・衛生管理チェックリスト
時間帯ごとに分けると、迷わず回せます。印刷して、バックヤードに貼っておく使い方が向いています。
開店前のチェック
- スタッフ・キャスト全員の体調確認(下痢、嘔吐、発熱、手指の傷や化膿がないか)
- 手洗い場に石けん、ペーパータオル、消毒用アルコールが揃っている
- 冷蔵庫の温度確認(冷蔵は10℃以下、冷凍はマイナス15℃以下が目安)
- 製氷機の氷に異物、臭い、ぬめりがない
- グラスに洗い残し、曇り、欠けがない
- 客席のテーブル、ソファ、メニューにベタつきや汚れがない
- トイレの床、便器、洗面台、ゴミ箱、トイレットペーパーの確認
営業中のチェック
- 氷はスコップかトングですくい、グラスで直接すくわない
- お酒を作る前、トイレの後、ゴミを触った後は必ず手を洗う
- カットフルーツや軽食は、作り置きの時間を決めて、古いものは出さない
- 加熱が必要な料理は、中心部まで75℃で1分以上の加熱が目安
- おしぼりは使用済みと未使用を分けて置く
- こぼれた酒や食べ物は、その場ですぐ拭く
- トイレは営業中も定期的に見回り、時間を決めて補充する
閉店後のチェック
- グラス、食器、シェイカー、マドラーを洗って乾燥させる
- カウンター、テーブル、ソファ周りを拭き上げる
- 残った食材は日付を入れて冷蔵保存、古いものは捨てる
- シンク、排水口のゴミを取り、ぬめりを洗う
- 生ゴミは密閉して出し、ゴミ置き場を汚したままにしない
- 床を掃き、拭く。厨房がある店は、油はねも落とす
- 終わったら、チェック表に時刻と担当者名を書く
週1回・月1回のチェック
| 頻度 | 場所 | やること |
|---|---|---|
| 週1回 | 製氷機 | 氷をすべて出し、内部とスコップを洗って消毒する |
| 週1回 | 冷蔵庫・冷凍庫 | 中身を整理し、棚とパッキンを拭く |
| 週1回 | 排水口・グリストラップ | たまった汚れを取り除き、洗浄する |
| 月1回 | 換気扇・エアコン | フィルターを外して洗う(ホコリとニオイ対策) |
| 月1回 | 害虫・ネズミの痕跡 | 隅や配管周りを点検し、フン、かじり跡、侵入口がないか確認する |
お客様が無意識に見ているところ
衛生管理は、法的リスクを避けるためだけのものではありません。お客様の満足度にも直結します。
お客様は「汚い」と口に出す前に、無意識に店を判断しています。グラスの曇り、ソファのベタつき、トイレの臭い、おしぼりのニオイ。 どれも、店の格を静かに下げます。特にトイレは、店全体の清潔感の印象を決める場所です。
キャストの身だしなみも同じです。爪、髪、香水の強さ、衣装の汚れは、お客様と近い距離で接する仕事では隠れません。 「掃除が行き届いた店」という印象は、高い席料を払うお客様ほど気づきます。
毎日やること
開店前・営業中・閉店後
時間帯ごとに分けて習慣化
冷蔵庫の温度目安
10℃以下
冷凍はマイナス15℃以下
嘔吐物が出たときの処理手順
お酒を出す店で、酔ったお客様の嘔吐は避けられません。 放置したり、普通のモップで拭いたりすると、ノロウイルスなどが広がる原因になります。手順をスタッフ全員が共有しておくことが大切です[3]。
近づけない
お客様と周囲の人を離れた場所に移し、嘔吐物の周りに人が入らないようにします。
使い捨て手袋・マスク・エプロンを着ける
素手では絶対に触りません。換気も行います。
ペーパータオルで外側から内側へ拭き取る
拭き取ったものは、ビニール袋に入れて口を縛ります。
塩素系消毒液で床を拭く
厚生労働省は、嘔吐物のついた床の処理には、次亜塩素酸ナトリウム0.1%程度の液を示しています。 拭いた後は水拭きし、最後に手を石けんで十分に洗います。
この手順を、スタッフが「誰が見ても動ける」状態にしておくこと。それが、拡大を防ぐ一番の方法です。
記録を残す — 保健所に見せられる形に
HACCPに沿った衛生管理では、「やった」だけでなく、やった記録が求められます[2]。 立入検査が来たときに、掃除の実態を伝えられるのは記録だけです。
チェック表を作っても、「誰が」「何時に」やったかの欄がなく、ただ丸を付けるだけになっている店は少なくありません。 閉店後の締め作業は、その日の担当が入れ替わりやすく、「誰かがやっただろう」で抜け落ちがちです。 チェック表には担当者名と時刻の欄を必ず入れ、表を書き終えるまでが締め作業とルール化しておくと、記録として使えます。
記録は難しい形式でなくて構いません。紙1枚、スマホのメモ、写真付きの報告でも、続けられる形が一番です。
冒頭の「閉店後はクタクタで後回しになる」という悩みに戻ります。 完璧な掃除を目指すと続きません。まず明日、閉店後のチェック表を1枚だけ作ってください。担当者名と時刻の欄を付けて。 それだけで、後回しだった掃除が「仕事の終わり」に変わります。
よくある質問
お酒だけを出す店でも、営業許可は必要ですか?
必要です。お酒や飲み物を客に提供して飲ませる営業も、飲食店営業にあたります。 店舗の形態によって細かい扱いが異なるため、開業前に管轄の保健所で確認してください。
食品衛生責任者は必ず置かないといけませんか?
飲食店の施設ごとに、食品衛生責任者を置くことが求められています。 所定の講習を受けた人や、調理師などの資格をもつ人が担当します。 細かい要件は都道府県ごとに異なるので、保健所に問い合わせると確実です。
清掃を外部の業者に任せれば、責任も移りますか?
移りません。清掃を委託しても、営業者としての衛生管理の責任は店側に残ります。 業者が入る範囲と、店のスタッフが毎日やる範囲を、あらかじめ分けておくと運用しやすくなります。
氷の扱いで特に気をつけることはありますか?
氷はそのまま口に入るため、リスクが高い食品です。専用のスコップやトングを使い、グラスで直接すくわないこと、 製氷機の内部を定期的に洗って消毒することが基本です。
保健所の立入検査は、予告なしに来ますか?
予告なしに行われることがあります。営業時間中に来る場合もあるため、 日頃から清掃と記録を整えておくことが、いちばんの備えになります。
参考・出典