経営ノウハウ14分で読める

【2026年版】キャバクラのキャストは業務委託?雇用? — 労基法と所得税法で見る境界線

ナイトビジネスラボ編集部

書類と電卓のイメージ

「うちのキャストは全員"業務委託"だから、社保も深夜割増も関係ないよね」
「契約書に"業務委託"って書いてあるから大丈夫でしょ?」
「税金は10%引いて渡してるけど、これって正しいの?」
「スタッフから"未払い賃金"を請求された。どうすればいい?」

ナイトビジネスでは、キャストやホステスを「業務委託(個人事業主)」として契約するのが一般的です。 しかし2025年6月、東京地裁がキャバクラ経営者に約2,000万円の未払い賃金の支払いを命じる判決を下しました[1]。 契約書上は「業務委託」でも、実態が雇用であれば法律上は労働者として扱われます。

この記事では、労働基準法・所得税法の条文をもとに、 「業務委託と雇用の境界線はどこか」「源泉徴収はどうすべきか」「経営者が今すぐ確認すべきこと」を解説します。

i
この記事はこんな人向け
・キャストを業務委託で契約しているが法的に問題ないか確認したい
・これからキャバクラ・ホストクラブを開業する予定で雇用形態を決めたい
・スタッフから「雇用じゃないのか」と言われた
源泉徴収の計算方法が正しいか自信がない
税務調査や労基署の調査が入った場合に備えたい

ナイトビジネスの「業務委託」の現実

キャバクラ・ホストクラブ・ガールズバーでは、キャストを「業務委託契約」で働かせるお店が大多数です。 経営者にとっては、社会保険料の負担がない、深夜割増を払わなくていい、解雇トラブルになりにくい — というメリットがあるからです。

しかし、法律の世界では契約書に何と書いてあるかではなく、実際の働き方がどうかで判断されます。 これを「労働者性」の判断といいます。

「契約書があるから安心」は通用しない
契約書に「業務委託契約」と明記してあっても、実態が雇用であれば裁判所は労働契約と認定します。 逆に言えば、契約書はあくまで参考資料であり、決定的な証拠にはなりません[1]

法律ではどう定義されているか

まず、「労働者」とは法律上どういう人を指すのか、条文を確認しましょう。

i
労働基準法 第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

ポイントは2つ。「使用される」(指揮命令を受ける)ことと、「賃金を支払われる」(労務の対価として報酬を受ける)こと[2]。 この2つを満たせば、契約書の名目にかかわらず「労働者」です。

次に、深夜割増に関する条文です。

i
労働基準法 第37条第4項
使用者が、午後十時から午前五時までの間において労働させた場合においては、 その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の二割五分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

ナイトビジネスの営業時間は、ほぼ全てこの「午後10時〜午前5時」に被ります[3]。 つまり、キャストが「労働者」と判断された場合、営業時間のほぼ全てに25%の割増が必要になります。

さらに、賃金の支払い方法にも法律の規定があります。

i
労働基準法 第24条第1項
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない

「厚生費」「ヘアメイク代」「送迎費」「罰金」など、名目を問わず一方的に天引きすることは、 労使協定がない限り賃金全額払い原則に違反します[4]

「労働者」かどうかの判断基準 — 6つのチェックポイント

裁判所や労働基準監督署が「労働者性」を判断する際に見るポイントは、主に以下の6つです[5]。 当てはまる数が多いほど、「業務委託」ではなく「雇用」と判断されるリスクが高まります。

チェックポイント業務委託(セーフ)雇用と判断される(リスク)
1. シフト・出勤キャスト自身が自由に決める店側がシフトを決定・調整している
2. 報酬の決め方成果(売上・指名数)に連動時給制で支払っている
3. 指揮命令接客方法はキャストの裁量服装・接客マニュアル・行動を店が指示
4. 代替性本人以外が業務を行える本人しかその業務を行えない
5. 経費負担衣装・交通費はキャスト自腹ドレス・ヘアメイク・送迎を店が提供
6. 専属性他店との掛け持ちOK掛け持ち禁止・副業禁止
!
「時給制 + シフト管理」の組み合わせが最も危険
東京地裁の判決では、時給制での報酬支払い店側によるシフト決定が 労働者性を認定する決定的な要素となりました。 この2つが揃っている場合、他の要素がどうであれ「雇用」と判断される可能性が極めて高いです[1]

東京地裁判決 — 2,000万円の未払い賃金命令

2025年6月、東京地方裁判所がキャバクラ経営者に対して約2,000万円の支払いを命じた判決は、 業界に大きな衝撃を与えました[1]

東京地裁 2025年6月25日判決の概要

争点: キャバクラ勤務の女性は「業務委託」か「労働者」か

店側の主張: 業務委託契約を締結しており、労働者ではない

裁判所の判断: 以下の実態から労働契約と認定

  • 店側がシフトを決定・調整していた
  • 時給制で報酬を支払っていた
  • 出退勤を管理していた(タイムカード)
  • 遅刻に対する罰金制度があった
  • 「税金」名目で報酬から10%を一方的に控除していた

認定された違反:

  • 賃金全額払い原則違反(一方的な控除)
  • 深夜労働の割増賃金不払い

→ 約2,000万円の支払い命令

この判決のポイントは、契約書上は「業務委託」であっても、 実態が雇用であれば労働契約として扱われるということです。 しかも、過去に遡って深夜割増や未払い賃金を請求されるため、金額は数百万〜数千万円規模になります。

源泉徴収の正しい計算方法

キャストへの報酬が「業務委託(報酬)」として正当に扱える場合、 源泉徴収の計算方法は所得税法で明確に定められています[6]

i
所得税法 第204条第1項第6号
キャバレー、ナイトクラブ、バーその他これらに類する施設で(中略)客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者のその業務に関する報酬又は料金

ホステス等の報酬に対する源泉徴収の計算式は以下のとおりです[7]

源泉徴収税額の計算式

(報酬額 − 5,000円 × 計算期間の日数)× 10.21%

※「計算期間の日数」= 報酬計算の基礎となった期間の初日〜末日の暦日数(出勤日数ではない)

※ 3月1日〜31日なら、出勤が20日でも31日で計算

計算例

月収60万円、計算期間3月(31日間)の場合

1. 控除額: 5,000円 × 31日 = 155,000円

2. 課税対象: 600,000円 − 155,000円 = 445,000円

3. 源泉税額: 445,000円 × 10.21% = 45,434円

→ キャストへの支払額: 600,000円 − 45,434円 = 554,566円

「報酬の10%を天引き」は間違い
よくある誤りとして、報酬の10%をそのまま天引きするケースがあります。 正しくは5,000円×日数の控除を引いてから10.21%をかけます。 これを間違えると、税務調査で過大徴収として指摘され、 キャストに返還義務が生じます[7]

業務委託が否認されたらどうなる?

税務署や労基署に「これは雇用だ」と判断された場合、以下の追徴が一気に来ます。

深夜割増の遡及請求

25%×全勤務

午後10時〜午前5時の全時間

社会保険料の遡及

最大2年分

健康保険+厚生年金

源泉所得税の差額

報酬→給与

計算方法の差額+不納付加算税

消費税の仕入控除否認

全額

外注費→給与で控除不可に

「税金」と「労働法」のダブルパンチ
業務委託が否認されると、労基署からは未払い賃金・割増賃金の支払い命令税務署からは源泉所得税の差額+消費税の仕入控除否認が同時に来ます。 東京地裁の判決では1人で約2,000万円。 キャストが複数人いれば、1人あたりの金額 × 人数分に膨れ上がります[1]

業務委託 vs 雇用 — 経営者の負担比較

「雇用にしたらコストが上がるのでは?」という懸念は当然あります。 しかし、否認リスクを含めたトータルコストで比較すると、正しく雇用した方が安全な場合が多いです。

項目業務委託(実態が伴う場合)雇用契約
社会保険加入義務なし会社負担あり(約15%)
深夜割増不要25%の割増が必要
源泉徴収10.21%(5,000円×日数控除後)給与所得の源泉徴収表に従う
消費税の仕入控除 可能× 不可
解雇リスク契約終了は比較的容易解雇規制あり(30日前予告等)
否認リスク× 実態と乖離なら数千万円 なし

経営者が今すぐやるべき5つのこと

1

契約と実態の整合性を確認する

契約書に「業務委託」と書いてあっても、シフトを店が決めて時給で払っているなら実態は雇用。まず現状を棚卸しする

2

源泉徴収の計算方法を見直す

「報酬の10%天引き」ではなく、5,000円×暦日数の控除を引いてから10.21%。間違っていたら修正申告が必要

3

一方的な天引きをやめる

「厚生費」「罰金」「ヘアメイク代」「送迎費」の天引きは、労使協定なしでは賃金全額払い原則違反(労基法24条)

4

業務委託を維持するなら実態を合わせる

シフト自由・成果報酬・掛け持ちOK・衣装自腹 — この4つが揃って初めて「業務委託」として通用する

5

専門家に相談する

社労士(労務面)と税理士(税務面)の両方に相談。風俗業界に強い専門家を選ぶのがポイント

「業務委託のまま」でも対策はある
業務委託を続けること自体は違法ではありません。大切なのは契約と実態を一致させることです。 シフトを自由にする、報酬を成果連動にする、掛け持ちを認める — この3つを実行すれば、業務委託としての正当性を保てます。

よくある質問

Q. 業務委託のキャストに深夜割増は必要?

実態として正当な業務委託であれば不要です。 深夜割増(25%)は労働基準法第37条の規定であり、「労働者」にのみ適用されます[3]。 ただし、シフト管理+時給制など実態が雇用であれば、契約書に「業務委託」と書いてあっても深夜割増の支払い義務が発生します。

Q. キャストへの報酬は「給与」と「報酬」どっちで処理すべき?

実態に合わせて判断します。指揮命令を受けて時間拘束されているなら「給与」、 自分の裁量で自由に働いているなら「報酬(外注費)」です[6]。 税務調査では「報酬」扱いしていたものが「給与」に認定されるケースが多く、 その場合は源泉所得税の差額と消費税の仕入控除否認が同時に来ます。

Q. 「罰金制度」は違法?

業務委託であれば契約上のペナルティとして設定可能ですが、 実態が雇用と判断された場合は労働基準法第16条(賠償予定の禁止)に違反します[4]。 東京地裁の判決でも、遅刻に対する罰金制度が「雇用関係の証拠」として認定されました。

Q. 過去分を遡って請求されることはある?

あります。未払い賃金の時効は3年(2020年4月の改正労基法施行後)です。 つまり、最大3年分の深夜割増・未払い賃金を遡って請求される可能性があります[2]。 社会保険料は最大2年分の遡及加入が求められます。

Q. freeeなどの会計ソフトで正しく処理するには?

雇用の場合は「給与」として登録し、深夜割増を含めた給与計算を行います。 業務委託の場合は「外注費」として登録し、 5,000円×暦日数の控除を引いてから10.21%で源泉徴収します。 freee人事労務を使えば深夜割増の自動計算に対応しています。途中で業務委託から雇用に切り替える場合は、切替日以降の処理を変更する必要があります。

この記事の運営者

ナイトビジネスラボ編集部

東京・秋葉原でコンセプトカフェ・バー4店舗を運営する株式会社アキグラが、 現役店舗経営の実務経験と法令の一次情報に基づいて執筆・監修しています。運営者情報を見る

まずは無料で試してみませんか?

Freeプランは永久無料・クレカ不要。30秒で始められます。

無料で始める